ちょっと気になっていたホラーゲーム、孵道(かえりみち)を遊びました。以下ネタバレいっぱいの感想。
タイトル画面の、雑木林の中の山道シーンの真ん中に縦に黒帯がはいってタイトルやメニューが出るレイアウトからして何だか好きだなあ。レトロかつおどろおどろしい気配もあるフォントと言い雰囲気出ますよね。人物のイラストは画風がなんだろう、ガロ系……? 何となく古谷兎丸を思い出しました。白黒にしてコントラストを上げた感じのザラッとした風景が面白いです。
恐らく下校中のシチュエーションで主人公は小学生と思われます。先生とおぼしき女性からは何があっても振り返らないようにと言われ、子供たちは誰が一番先に帰れるかの競争をしている様子。ひたすら振り返らず前に進むように道周りのオブジェクトをクリックして調べたり「前に進む」のマーカーをクリックしますが、ホラー演出のところでは誘う声を振り払うのにQTEで「振り返らない」などのマーカーが画面内あちこちに出現するのを時間内に全部クリックしていくというエイムゲーです。早く家に帰らなきゃ……! という主人公が感じていそうな焦りとクリックしなきゃという自分の焦りがリンクしていかにも追われているような焦燥感が視覚的にも感じられてすごい。その反面、画面が白黒なうえにホラーシーンではノイズが走ったり揺れたりするのでめちゃくちゃカーソルを見失う……! 背の高い女のところで3回死んだので「これは無理だ」とサクッと難易度を下げました。あとフルスクリーンにせず画面サイズを小さくしてカーソルを動かす面積そのものを狭めて挑みましたが、だいぶやりやすくなったように感じます。カーソルを見失うのに変わりはないんですが。そのあたりはゲーム内でカーソルの形やサイズも設定されてると良かったんじゃないかなと思いました。
家に帰る途中なのにお寺? の山門を通るので主人公はお寺の子なのかな~なんて思っていましたが、本堂(お寺なんですかね?)の老婆が右を指さすのに従ってそちらに向かいまして……家に帰るような流れだった気がしますが自分でそちらに向かわず老婆に示されているのがちょっと不思議ですね。あと家がボロい、本当にここでいいのかと思いつつ進むしかなく……そこで子供たちが大勢待っていてひたすらショタ声のASMRになります。バイノーラルマイクを使って収録しているらしく、囁く声が耳元で右や左に行き来するのは臨場感がすごいです。ただショタ声が可愛いものだからいつ耳掃除や耳舐めが始まるかと違う意味でドキドキしました。フルボイスなんですが女性も少年も声が総じて綺麗めなんですよね、そして主人公の心を挫こうとする言葉も「まだ引き返さないんだ?」「諦めればいいのに」といった……何と言いますかきれいな形に整えられた台詞っぽさがあって、声とテキストの相乗効果で良くも悪くもシチュエーションボイスっぽさが出ていました。ここはちょっと、帰れ帰れ系の他にも不安をかきたてるだけのノイズや不明瞭な声、意味不明な言葉があってもいいかなと感じました。家の後も学校の廊下のような長い通路で子供たちが足止めしようと遊びをしかけてきますが、これもクリックゲー。だるまさんがころんだは少し長かったものの旗上げやかごめかごめは思ったより楽にクリアできました。最後に歌うような声とともに白い服の女性が待っていましたが、パッと思い浮かんだのが胎内回帰のイメージでした。どういう意味だろう、家に帰るんじゃなかったのかと思っていたんですが、受精の暗喩という解釈を見かけて「ああ~~……!」と。老婆が右を指さしたのももしかして本堂が子宮で左右に卵管があって……のようなイメージ? あまりこれは具体的に考えるとちょっと気持ち悪く感じてくるのであくまでぼんやり捉えたいところですが。言われてみれば子供たちが少年ばかりだった気がしますし、女性は老婆の他には序盤に出た右耳の少女や卵の女というこちらを殺しにくる存在だけなんですよね。……何の暗喩なのかとかあんまり具体的に想像すると私は逆に気持ち悪くなってしまうので、味わいを損ねないようあまり考えないようにします。
クリックしないといけない焦燥感はホラー演出に合うアイデアでしたが、だんだん「引き返してはいけない、振り向いてはいけない」という状況よりシステムに対しての焦りやストレスが勝ってくる構造なのが惜しいところです。バイノーラルで「右耳ちょうだい」と奪われた後は右の音声が消えてしまうのも没入感が出ていいなと思ったんですが(次に通ると右目ちょうだいされて右側の視界が暗くなったり)、振り向いてしまった時のバッドエンドは種類が多いものの基本的に恐ろしい顔がバーンと待ち構えているパターンなので、ビビリの私でもさすがに慣れてしまったのが残念でした。サブリミナル的に入り込む怖い顔なども不明瞭な影や血痕だったり特に何でもないオブジェクトだけど急に増えたり消えたりとか、もう少し抽象的なものがあっても良かったかなと恐怖演出の声や絵については惜しいポイントでした。アイデアはすごく面白かったので、よりぼんやりした恐怖感だったりQTEパートのためにカーソルを見やすくするなどの一工夫があったらより楽しめるように思います。いろいろ「ここはこうだったら」と思いつつ、ワンコインで買えるゲームなので雰囲気を味わってドキドキするのにはちょうどいいゲームでした。
追記:道中でフッと現れて消える怖い顔の少年たちはプレイ中はあまりじっくり見れませんでしたが、全エンド回収後に解放される設定画を見ると先天的な奇形の姿に似てるなと……不気味さと言うか悲しさと言うか、これを怖いと思ってしまったら罪悪感を抱きそうな、でも奇形だと感じてそれぞれの形のおかしさに法則性と言うか「なんとなく知っている」という共通点を感じてしまう塩梅が上手いと言いますか。家に入ってからエンディングまでの雰囲気でやっぱり受精から出産の隠喩で、受精に至らなかった精子であったり受精しても様々な理由で流産してしまった子供たちなのかなあとしんみりしつつ、一番最初に山道で遭遇する敵はどうやら男で白い布を被せられてゲームオーバーということはティッシュペーパーに吐き出されたのかなと思い至って「わあ……」となりました。あんまり具体的に考えすぎると生活臭出ますね。